みんなでプログラミングteaching site|社会を意識し、生徒自ら考え、判断できる情報モラル教育への転換のポイント
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社会を意識し、生徒自ら考え、
判断できる情報モラル教育への
転換のポイント

新しい時代の情報モラルの教育

スマホの普及や低年齢化に対応し、情報モラルの指導が、日常の生活指導レベルで必要になってきたことは言うまでもありません。一人一台の端末が整備される時代では、クラウド(クラウド・コンピューティング=ネットを経由して、ネット上のサーバーにあるデータやアプリケーションを活用する)の活用が標準になります。ネットで接続されている点では個人のスマホと同じですが、子どもたちがクラウドにある各種アプリを使ったり、情報の保存や編集したりすることが、ごく当たり前になり、従来の情報モラルの内容に加えて、新たに配慮しなければいけないことも出てきます。
1人1台端末時代では、これまで以上に生徒個人の判断や自主性が求められるようになります。端末の数が増え、クラウドしようが当たり前になれば、細かい制限やコントロールをしようと思ったら大変です。これも心配、あれも心配と制限をかけていったら、結局生徒にも先生にも使いにくくなり、何のために端末を導入したのかということにもなりかねません。基本的な部分は大切にしながらも、生徒の自主性、判断力を育成する、新しい時代に対応した情報モラルの教育が必要になってきています。

安全の教育と心の教育

情報モラルは、学習指導要領において、「情報社会で適切か活動を行うための基本になる考え方と態度」とされ、①人権、知的財産などの自他の権利を尊重し、情報社会での行動に責任を持つこと、②危険回避を含む情報を正しく安全に利用できること、③情報機器の仕様による健康との関わりを理解の3つのねらいが示されています。こうした情報モラルの教育は、安全に関する知識や判断力などに関する安全教育と、ルールを守る、思いやりや礼儀といった心の教育に大別されます。
この安全教育と心の教育を車の両輪として、学年の発達段階に応じて適切かつ計画的に行っていく必要があります。長期休み前にスマホやネットの使い方について注意を促すことは大切ですが、それだけでは情報モラルの指導としては不十分です。例えば、ネットでの検索が簡単にできるようなった反面、コピペ問題が生じる。国語科の指導内容に適切な引用がありますが、これも情報モラルの指導内容の一つです。このように考えると、情報モラルとの関連が考えられる学校生活や授業の場面は多数あるのではないでしょうか。情報モラルの教材や資料は有料、無料問わず多数ありますので、それらを活用し、何か情報モラルに関するトラブルが起きてから急ぎ対処を考えるのではなく、日常的な指導の積み重ねで対応していきたいものです。

生徒自ら考え、判断できる教育に

情報モラルについてさらに一歩踏み込んで考えてみましょう。1 人 1台端末でクラウド利用進み、中学生のSNS利用が一般化してきた現在、従来の安全の教育と心の教育では十分とはいえない部分が出てきます。例えば、SNSでは様々な人が様々な立場で情報発信をします。当然多様な価値観が対立することも発生し、時に炎上と呼ばれる状況も発生します。この場合、SNSの使用に気をつけよう、相手のことを思いやろうといった指導内容だけでは対応しきれないでしょう。多様な価値観があることを前提に、法的、倫理的な判断や行動がより必要になってきます。
こうした状況に対し、世界的な流れとしてデジタル・シティズンシップ教育の考え方があります。デジタル・シティズンシップ教育とは、ICTが一般的になった社会の中での公共的な判断や行動の仕方を学ぶための、情報技術の利用に関する適切で責任ある行動規範のことです。これまでの情報モラル教育が個人にフォーカスしたのに対し、デジタル・シティズンシップ教育は、公共的な部分にフォーカスしています。ICTが日常化する中で、これまでの安全や心の教育を発展させ、公共的な部分に目を向けたデジタル・シティズンシップ教育の考え方は、より重要になってくるでしょう。単なる禁止教育から、生徒自らが考え、判断できる新しい時代に対応した情報モラル教育へと踏み出していきましょう。

禁止教育から次の一歩へ

公共的な部分の考え方の例として、著作権について考えてみましょう。情報モラルというと、とかく〇〇はしない、といった禁止教育になりがちです。その一例が著作権についての指導でしょう。著作権の指導ではとかく、〇〇を使ってはいけません。〇〇はいけませんといった禁止事項が先になりがちです。もちろん、この内容は、著作権を意識して情報を活用する上で大切な点であることは確かです。しかし、著作権の法律の最も大事な理念は、文化の振興です。先人や他者の著作物を参考にしたり、学んだりしながら、より良い知的な成果物(知的財産)を生み出していくことが重用です。この部分はまさに公共的な考え方になります。
一人1台の端末によりネットやクラウドを活用すると、これまで以上に様々な表現や発信が容易になります。そこでは、単なる禁止だけでなく、他社の著作権を尊重すると共に、子どもたちには、自分も著作者であることを自覚し、積極的に表現・発信をしていける生徒たちになって欲しいですね。
ある学校では、授業で制作した作品について、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(著作者が自らの著作物の再利用を許可する等の意思表示を手軽に行える方法)のシールを貼って、翌年の後輩達に参考にしてもらう形にしていました。これで翌年の作品の質がグンと向上します。先輩達の作品を参考により良い作品を生み出す。同時に先輩の作品への敬意を持ち、自分の著作権も自覚する。そして翌年の後輩達にも広く公開するという公共性も意識されています。この考え方は、様々な場面で応用ができるのではないでしょうか。
以上のように、これまでの情報モラルの指導にデジタル・シティズンシップの考え方を取り入れていくことで、ICTを活用して、社会を意識し、生徒自ら考え、判断し、さらに新しい価値を創造していける生徒の育成につながっていくことでしょう。

参考
文部科学省:中学校学習指導要領(平成29年告示解説),2017
文部科学省:教育の情報化に関する手引き(追補版),2020
今度珠美・坂本旬・豊福晋平・芳賀高洋:アメリカのデジタル・シティズンシップ教育教材の日本における学習実践の可能性,メディア情報リテラシー研究,第1巻第2号,33-38,2020