プログラミング教育を行う先生へ
なぜプログラミングでデータ分析を学ぶのか?
生活や社会を支えるデータ分析
生活や社会に欠かせないインフラとなったインターネットですが、ネットを活用した様々なサービスは日々発展しています。ネットで検索をすれば、膨大なネット上の情報から、一瞬で捜し物の情報が関連情報や広告などとともに提示されます。ネットショッピングで商品を探せば、お勧め商品が次々と表示されますし、音楽や動画を視聴すれば、同様にお勧め作品が表示されます。高校生にとってもこれは日常の一部にもなりました。
これらを支えているのは、膨大なユーザーのデータ(ビックデータ)を元に、分析・活用する技術であることは言うまでもありません。現在、こうしたデータ分析には、プログラミングが不可欠です。現在の AIもこうした情報技術の成果の一つです。プログラミングとデータ分析を学ぶことは、社会を支えているこれらの内容について、体験を通して理解することと、それを活用して問題を解決していく力の育成につながります。
COVID-19対応のように、不測で解も見えない問題に立ち向かうことが求められるこれからの時代を生きる生徒たちにとって、データ分析は重要な学びになるでしょう。
データサイエンスの重要性
データ分析自体を対象にする学問が統計学です。統計自体は古代ローマや中国などでの人口調査から始まり、限られた量のデータから全体の状態を把握する推測統計学の登場あたりから、学問として確立・発展してきました。そして統計学にプログラミングや AIなどの情報科学の内容なども含め、横断的に扱う学問領域として、データサイエンスが注目されています。データサイエンスでは、データを用いて新たな科学的および社会に有益な知見を引き出すことを目的とし、研究や社会の様々な領域、問題を対象にしています。また、このデータサイエンスの研究者や実践者は、データサイエンティストと呼ばれ、新たな職業としても注目を浴びています。今後、社会の様々な領域において、データサイエンスの重要性はより高まっていくでしょう。
各教科で展開するデータの分析・活用
データサイエンスの重要性が高まることを受けて、現在の学習指導要領でもこうしたデータ分析の学びは広がっています。特に数学ではデータの活用として、統計を用いた問題解決に関する内容が増加・高度化し、全学年で展開されています。また、社会科でも様々な統計データから考察していく内容、理科でも観察や実験でデータを収集し、分析・考察する内容が設定されています。これは小学校でも同様です。また、技術・家庭科技術分野でのプログラミングはより高度化し、高等学校での情報の授業では、プログラミングとデータ分析が必修の内容として設定されました。
大学でも、文系や理系に問わず AIやデータサイエンスを学ぶ動きが広がっています。データサイエンスの名前をつけた学部や学科も増えてきました。このように各教科でデータの分析、さらに活用の学びが、プログラミングの学びと共に展開されてきています。
データ分析とプログラミングの連携
国語は思考の柱、英語は異なる文化とのコミュニケーション、プログラミングは機械とのコミュニケーションとしてとらえると、データ分析は、世界を見る虫眼鏡ともとらえられます。データ分析の虫眼鏡で生活や社会の様々な事象を観察し、それまで気づかなかったことを発見していく。そして問題解決に活かしていくことが大切です。これまでプログラミング教育では、プログラミングを体験し、プログラム的思考を学ぶことが重視されてきました。これからもそれは変わらないですが、その次のステップとして、データ分析との関連が考えられます。
データ分析で通常使われるのは、表計算ソフトですが、表計算ソフト自体もプログラムです。また、情報技術の発達で、プログラムにより、多量のデータを収集・扱ったり、柔軟で様々な分析が比較的簡単にできるようになったりしてきています。通常のプログラミング同様に、プログラミングによるデータ分析を体験することは、その入り口になります。
各教科でのデータ分析に関する内容にプログラミングを少し加えると、これまでとは異なったプログラミングの学びが見えてくるのではないでしょうか。そしてそれは AIやデータサイエンスの学びへと発展していきます。
データ分析による問題解決の学び
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のステップによって、様々管理や経営、運営などを継続的に改善していく「PDCAサイクル」は、多くの方がご存じでしょう。同様に、問題を解決するための考え方として、「PPDACサイクル」があります。これは、問題解決における各段階を、Problem(問題発見)、Plan(調査計画)、Data(データ収集)、Analysis(分析)、Conclusion(結論)という流れで進めていく統計的な問題解決の方法です。「PDCAサイクル」との違いは、「PPDACサイクル」がデータを扱うことを前提にしていることです。各教科のデータ分析を用いた問題解決では、この「PPDACサイクル」を活用していきます。そして主にデータ分析部分でプログラムを活用していきます。
こうした「PPDACサイクル」とプログラミングを連携させて学ぶことにより、生徒たちは、データ分析の虫眼鏡を持ち、プログラミングで機械とやり取りしながら、今後彼らが直面していく様々な生活や社会での解の見えない問題を解決していけるのではないでしょうか。
目の前の生徒達の 10年、20年後のために、データ分析とプログラミングにも取り組んでみませんか。
総務省統計局:学校における統計教育の位置づけ、https://www.stat.go.jp/teacher/stat-education.html